ご挨拶

 

 2020年度から日本乳幼児医学・心理学会の第4代理事長となりました根ケ山光一(早稲田大学)です。この学会名の「医学・心理学」の意味について私の思うところを述べ、皆様へのご挨拶とさせていただきます。

 

 子どもの生活は、それをとりまく社会のありかたと不可分に関連します。そのことを思い知らされたのは2011年3月の東日本大震災でした。とくに原子力発電所の事故は避難を誘発し、それによって子どもの生活は激変しましたが、そこには放射線被ばくに関する医学情報が大きく関与していました。また2020年の新型コロナウィルスのパンデミック情報も社会を震撼させるとともに、休校措置を含め子どもの生活に影響しました。その他、厚労省の通達が母親の育児行動を左右したり、健康に関する統計が子どもの食や生活改善を促したり、事故の統計が子どもの安全管理を強化させたり、乳幼児の突然死情報が夜間の親子関係に影響したり、母子保健や精神衛生のデータが親子関係を見直させたりなど、子どもの生死につながる心身の健康を扱う医学と、子どもの心理行動の適応を扱う心理学が重なる重要な問題は、例を挙げればきりがありません。

 

 医師は専門性をふまえて社会のしくみを枠づけるとともに、親に指導や助言を行い、親はそれを参照しながら子どもを育てます。また親は主体的存在として、子どもの幸せを願って医師にさまざまな期待や要求もします。そして看護師や助産師といった人たちがその両者を仲介します。そのような親以外の人たちによる子どもの育ちへの関わりはアロペアレンティング(アロケア)システムとして、その協力や交渉はヒトの子育ての大きな特徴となっています。このことは、私たち人間の子育ては母子のみで完結しているのではなく、そういった豊かな社会文化的システムのバックアップ抜きには語りえないことを教えてくれています。しかしそれは子どもの主体性と相容れない場合がありますし、また時に親の子育てと衝突することもあるかもしれません。医療現場それ自体、子どもの育ちに関わる者たちの協和・不協和を含む複雑な社会心理学的場面なのです。

 

 そういう状況で望ましい子育てを共創するためには、医学と心理学の相互乗り入れ的な議論の場が求められます。本学会には、医学と心理学のあるべき協働を学際的に切り開くという重要な社会的使命があり、名称の「・」の意味は、まさにそこにあると考えます。学会員の皆様にはどうかこのような本学会の独自な存在意義を再認識いただき、子どもの幸せのために領域横断的に議論を重ね、その成果を社会に発信してまいりましょう。また学会員でない方はこの機会にぜひご入会いただき、それをともに模索していこうではありませんか。

 

2020年4月

日本乳幼児医学・心理学会 理事長

根ケ山光一